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東京高等裁判所 昭和25年(ラ)95号 決定

抗告人市原は相手方会社の運輸課書記補であつて京成千葉駅助役、抗告人周郷は新千葉駅出改札主任、抗告人谷川及び水野は京成千葉駅出札係兼改札係であつたが、相手方会社は昭和二十五年三月十六日懲戒決定を以て抗告人等を解雇に処した。しかしこの解雇は次の理由により無効である。

(一)  本件懲戒処分は京成電鉄株式会社の従業員を以て組織せられ、抗告人等を組合員とする京成電鉄労働組合と相手方京成電鉄株式会社との間に締結せられた労働協約附属の懲戒規程に違反して為された無効のものである。即ち(イ)右懲戒規程第十一条によれば懲戒委員会は会社側及び組合側より選出された同数の委員を以て構成すべきであるに拘らず、本件の懲戒処分を決定した懲戒委員会は会社側四名、組合側七名の委員を以て構成され、即ち適法に構成されざりしものである。殊に会社側委員加藤運輸係長は最も重要なる審議に当り臨席していなかつたのである。而して本件の場合においては組合内部に対立があつたから、組合側委員が会社側委員より多数出席していたとしても、それによつて抗告人等の利益は擁護せられていたとはいい得ないのである。(ロ)右懲戒規程第十四条によれば懲戒委員会は懲戒が決定したときは懲戒決定書を作成することを要するに拘らず本件の懲戒決定書と称するものには懲戒委員会の表示もなく懲戒委員の署名も捺印もない。而して本件における懲戒決定書と称するものの末尾には「主文の通り決定する。昭和二十五年三月十六日社長」と記載されているが、懲戒規程第十条によれば懲戒は懲戒委員会の決議に基ずいて社長がこれを行う旨規定され、即ち社長は懲戒委員会の決定したところを執行する権限のみを有するに止まり、懲戒に処することを決定する権限を有しないから、右末尾の記載は無意味であり、結局本件の懲戒決定書と称するものは反古紙同様であつて、本件懲戒は懲戒決定書の作成なくして行われたものである。而して懲戒決定書の作成なくして行われた懲戒は無効たるを免れない。(ハ)懲戒規程第十六条により懲戒の執行には適法に作成された懲戒決定書を懲戒を受くべき者に交付することを要件とする。然るに本件の場合懲戒決定書の作成なかりし当然の帰結として、その交付なくして懲戒が行われたのであるから、その懲戒はこの点よりしても無効たるを免れない。

(二)  抗告人等は孰れも懲戒規程第一条の「職務上の義務に違反し又は不正の行為をしたとき」に該当するものとして懲戒処分として解雇された。しかし抗告人等は決してかかる行為をしていない。仮に抗告人等の行為が懲戒に値するとしても同規程第二条但書の「反則軽微」の場合に該当し訓戒を以て足るものである。然るに抗告人等を解雇に処したのは、抗告人市原は元労働組合委員長、解雇当時駅務支部長兼本部中央委員、抗告人周郷及び水野は元代議員、抗告人谷川は解雇当時代議員として何れも労働条件向上のため熱心に組合活動をしたものであるので、相手方は懲戒に名を藉りて抗告人等を解雇したものであり、即ち本件解雇は不当労働行為として無効たるものである。

(三)  原決定は抗告人等が異議を留めることなく懲戒決定書等を受領し以て解雇を承認したと認定しているが、抗告人等は断じてこれを承認したことはない。仮に抗告人等において解雇を承認した事実があつたとしても、それは無効なる懲戒処分を有効と誤認して為したものであり、即ち要素の錯誤に基いて為したものであるからその承認は当然無効である。

(四)  懲戒による解雇は合意による雇傭関係の解除と異り、一種の制裁であり刑罰的性質を有する。然らば何人も法律の定める手続によるのでなければ刑罰を科せられない旨の憲法第三十一条並に何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われない旨の同第三十二条よりして、抗告人が懲戒規定に違反して為された本件懲戒処分に不服なる以上、これにつき裁判所の裁判を受け得るものというべく、この点を看過した原決定は失当である。

仍つて原決定を取消し、相手方が抗告人等に対し昭和二十五年三月十六日附を以て為した解雇の意思表示はその効力を停止するとの裁判を求める次第である。

仍つて按ずるに、抗告人等がそれぞれその主張の如き地位を有する相手方会社の従業員であつたところ、昭和二十五年三月十六日の懲戒決定を以て解雇に処せられたことは本件記録により明かである。

先ず第一の抗告理由を判断するに、京成電鉄株式会社の従業員を以て組織せられ、抗告人等を組合員とする京成電鉄労働組合と相手方京成電鉄株式会社との間に締結せられた労働協約附属の懲戒規程第十一条によれば懲戒委員会は会社側と組合側に於て選出した同数の委員を以て構成せられるものであることは、抗告人等主張の如くであることを認め得るが、「会社側と組合側に於て選任した同数の委員」とは、制度上懲戒委員会の委員数は会社側と組合側とが同数たるべきことを意味するものであり、具体的に開催される懲戒委員会において会社側と組合側との同数の委員が出席することを要する趣旨でないことは、右の規程を一読して直ちに明白なところである。而して乙第二十五号証によれば右懲戒委員会は慣行上会社側及び組合側各七名の委員を以て構成せられ、会社側及び組合側の各委員の半数以上の出席を以て委員会の成立並びに決議要件としたことが認められ、本件懲戒処分を為した懲委員会が会社側四名、組合側七名の委員の出席の下に開かれ全員一致を以て懲戒処分として解雇の決議を為したことも亦、同号証により明かである。

抗告人等は会社側委員加藤運輸係長は右懲戒委員の最も重要なる審議の際出席していなかつたと主張するけれども、委員会の開催中偶々一委員が一時その席にあらざりし一事によつて委員会の決議に何等の影響を及ぼすものではない。然らば本件懲戒処分を決定した懲戒委員会の決議自体は何等懲戒規程に違反したものとは認め難い。而して右懲戒規程は懲戒が決定したときは懲戒決定書を作成すること及び懲戒を受くべき者にこれを交付することを規定するが、右懲戒規程を見るとき既に懲戒処分が有効に決定した以上、仮令

懲戒決定書の記載に瑕疵ありとしても、懲戒決定書なるものを作成し又これを本人に交付するときは、懲戒処分そのものが無効となるものとは解し難く、本件において懲戒決定書なるものを作成し且これを抗告人等に交付したことは認め得るところであるから、結局第一の抗告理由は採用に値しない。

次に第二の抗告理由を判断するに、抗告人等の主張事実を認め得べき措信するに足る証拠はないから、この抗告理由も排斥を免れない。

次に第三の抗告理由につき判断するに、右に認定した如く本件懲戒が無効のものと解し難き以上、これによつて解雇の効力は有効に生じたるものと認むべきであり、従つて解雇の効力は抗告人等において解雇を承認したと否とによつて何等左右されるものではないから、此の点の抗告理由も採用し得ない。

最後に第四の抗告理由を見るに、本件の懲戒処分によつて解雇がその効力を生じたものと認むべきことは右の如く、然も懲戒による解雇が刑罰に非ざることは明白であるから、これを以て刑罰と同視する見地に立つ抗告理由は採用の限りではない。

然らば抗告人等の抗告理由は何れも採用し難く、その他原決定には何等の違法又は不当を見出し得ないから、本件抗告はこれを棄却すべきものとし主文の如く決定する。

(裁判官 松田二郎 河合清六 岡崎隆)

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